近年、ビジネスの現場で急速に注目を集めているのが「AIエージェント(Agentic AI)」です。「自社にも導入すれば、業務効率が格段に上がるはずだ」と期待を寄せ、ITベンダー(システム販売会社)が提供する完成品のAIエージェントパッケージを導入しようと検討している企業も多いのではないでしょうか。

しかし、海外の大手ITメディア「The Register」の報道(Gartnerの調査等に基づく)によると、**「2028年までに、7割(70%)もの企業がベンダー製の完成品AIエージェントの利用を断念、あるいは見直すことになる」**というショッキングな予測が立てられています。

「パッケージを買って導入すれば解決する」と思っていた企業が、なぜ数年後にはそれを捨てることになってしまうのでしょうか?

この記事では、AIの専門知識がない方でも「自分たちの現場にどう影響するのか」が理解できるように、この予測の背景にある本質的な課題と、これからの時代に求められるAIエージェントの正しい導入・設計・運用の進め方をわかりやすく解説します。


そもそも「AIエージェント」とは何か? 基本概念をわかりやすく解説

「ベンダー製AIエージェントの7割が捨てられる?」2028年の予測から学ぶ、失敗しないAIエージェントの導入・設計・運用ガイドの概念図

まずは基礎知識として、最近よく耳にする「AIエージェント」とは何なのか、従来のAIと何が違うのかを整理しておきましょう。

専門用語をできるだけ使わずに表現すると、従来のAIとAIエージェントの違いは**「指示された作業だけを行うアルバイト」と「目的を与えられて自ら考えて行動するベテラン社員」の違い**に例えられます。

従来の対話型AI(チャットボットなど)

人間が「この文章を要約して」「このメールの返信文を書いて」と一回一回細かく指示を出し、それに対して回答を返すツールです。AI自体が自ら次の行動を判断することはありません。

AIエージェント(Agentic AI)

人間が「〇〇という目的を達成して」と指示(ゴール設定)を出すだけで、AI自らが以下のようなステップを踏んで自律的に動きます。

  1. 計画: 目的達成のために必要な手順を自分で考える
  2. 実行: 社内システムや外部ツール(メール、カレンダー、データベースなど)をAI自身が操作する
  3. 評価と修正: 途中でエラーが出たら自ら修正し、最終的な成果物を人間に報告する

このように「自律的に判断して行動するAI」がAIエージェントです。業務の自動化を飛躍的に進める夢の技術として期待されています。

しかし、なぜこのAIエージェントを「ベンダーから完成品として購入する」アプローチが、2028年までに7割の企業で挫折すると言われているのでしょうか。


なぜ「ベンダー既製品のAIエージェント」を脱却する企業が増えるのか? 3つの構造的理由

ベンダーが販売する汎用的なAIエージェントパッケージは、一見すると「開発不要ですぐ使える」ため魅力的に見えます。しかし、実際の業務に適用しようとすると、3つの大きな壁にぶつかることになります。

理由1:社内独自のルールや「例外処理」に対応できない

企業にはそれぞれ、長年培ってきた独自の業務手順や例外的な対応ルールが存在します。 既製品のAIエージェントは、一般的な業務フローに合わせて作られているため、「A社からの発注で特定条件を満たしたときだけ、Bの承認ルートを通す」といった、自社特有の細かい事情に対応できません。結果として、「AIが使いものにならず、結局人間が手直ししている」という本末転倒な状態に陥ります。

理由2:ブラックボックス化と「勝手な判断」への恐怖(ガバナンスの問題)

AIエージェントは自律的に動くため、「AIが裏でどのような判断をしてツールを動かしたのか」が見えにくくなる(ブラックボックス化する)というリスクがあります。 特に金融、医療、法務などの厳格なデータ管理が求められる分野では、「AIが間違った情報を外部に送信してしまった」「根拠の不明なデータに基づいて社内決済を通してしまった」といった事故が許されません。ベンダー既製品では、この「AIの思考プロセスを制御・確認する仕組み(ガードレール)」を自社仕様にカスタマイズすることが難しいのです。

理由3:高額なライセンス料と「ベンダーロックイン」の危険

ベンダー既製品は、利用規模に応じて月額費用や従量課金が発生します。AIエージェントが複雑な処理を行えば行うほどコストは膨らみます。 また、特定のベンダーの仕組みに依存しすぎると、将来的に別の優れたAI技術が登場した際に乗り換えにくくなる「ベンダーロックイン(囲い込み)」の状態に陥り、コストパフォーマンスが急速に悪化します。

これらの理由から、多くの企業が「既製品をそのまま使う」のをやめ、**「オープンな基盤やAPIを活用して、自社の業務に完全にフィットさせるカスタマイズや自社開発(内製化)」**へとシフトしていくと予測されているのです。


失敗を防ぐ! AIエージェントの「導入・設計・運用」実践ガイド

では、企業はどのようにAIエージェントと向き合えばよいのでしょうか。ここからは、実務で成功させるための具体的なステップを解説します。

ステップ1:【導入準備】「全部AIにやらせる」を捨てる

最初から業務全体をAIエージェントに丸投げしようとすると、ほぼ確実に失敗します。まずは業務を細かく分解し、AIが得意な領域から適用しましょう。

  • AIに向いている業務: 定型的で手順が決まっており、デジタルデータで完結する作業(例:問い合わせの初期分類と回答案作成、毎日の売上データの集計とグラフ化など)
  • 人間がやるべき業務: 最終的な契約判断、感情的な配慮が必要なクレーム対応、前例のない重要決断

ステップ2:【設計】「人間が途中でチェックする仕組み(Human-in-the-Loop)」を作る

AIエージェントを完全に放置して動かすのし、重要なポイントでは「人間の承認」を挟む設計にすることが最も現実的かつ safe(安全)なアプローチです。

例えば、「AIが社内システムから情報を集めてメールの文面を作成する(自律動作)」までは自動で行わせ、「実際にメールを送信する(最終実行)」ボタンは人間が確認して押す、という仕組みです。専門用語ではこれを「Human-in-the-Loop(ヒューマン・イン・ザ・ループ:人間が輪に入る構造)」と呼びます。

ステップ3:【運用・改善】ハルシネーション(嘘)を防ぐ「安全網」と継続的な教育

AIは時として、もっともらしい嘘(ハルシネーション)をつくことがあります。これを防ぐために、以下のような運用ルールと仕組み(ガードレール)を設けることが欠かせません。

  • 根拠となるデータ(自社マニュアル等)の範囲を厳格に制限する
  • AIが判断に迷った(確信度が低い)場合は、無理に答えず「人間にバトンタッチする」ように設定する
  • AIの実行ログ(どのような手順で動いたか)を必ず記録し、定期的に人間が監査・改善する

AIエージェントは「導入して終わり」ではなく、新入社員を育てるように継続的なチューニング(微調整)を行うことで、初めて真価を発揮します。


実務での注意点と「落とし穴」

AIエージェントの導入・運用を進める上で、あらかじめ知っておくべき注意点をまとめました。

1. 内製化の「隠れコスト」を軽視しない

ベンダー既製品を避けて自社カスタマイズを進める場合、開発・運用するためのエンジニア育成や外部パートナーへの委託費用がかかります。「既製品を買わない=安く済む」ではなく、「投資の対象を外部のソフトウェアライセンスから、自社のアセット(資産)蓄積へ切り替える」という意識を持つことが重要です。

2. 「データの質」が低ければAIも育たない

「Garbage In, Garbage Out(ゴミを入れたらゴミしか出てこない)」というITの格言通り、社内のマニュアルがバラバラだったり、データが最新化されていなかったりすると、どれだけ優秀なAIエージェントを導入しても正しい仕事はできません。AIを導入する前に、まず社内ドキュメントの整理を行う必要があります。

3. 未確認事項・技術変化への柔軟性を持つ

AI技術は日々目まぐるしく進化しています。個別ベンダーの将来的な機能追加ロードマップや、数年後の詳細なライセンス価格体系については現時点で「未確認」な部分も多いため、単一の技術に固執せず、変化に応じて柔軟にツールや構成を変更できるアーキテクチャ(設計構想)にしておくことが推奨されます。


まとめ:2028年を見据えたAIエージェント活用のロードマップ

「2028年までに7割の企業がベンダー製AIエージェントを捨てる」という予測は、AIエージェントという技術そのものの否定ではありません。むしろ、**「AIエージェントが一時的なブームから、企業の競争力を左右する本質的な道具へと成熟する過程」**を意味しています。

安易な既製品の「丸投げ導入」から脱却し、自社の業務プロセスをしっかり理解した上で、主導権を持ってAIエージェントをコントロール・育成していく企業こそが、これからのデジタル時代に大きな成果を上げることができるでしょう。

まずは、自社のどの業務に「自律的なAI」の力を借りるべきか、小さな定型業務の切り出しから始めてみてはください。


参考資料