はじめに
生成AIを日常業務に導入しても、「毎回同じ前提を説明している」「チャットでは答えてくれるが、実際の作業は自分で行う」「別の日に再開すると判断の経緯が消えている」と感じることがあります。
この課題に対する一つのアプローチが、Nous ResearchのオープンソースAIエージェント Hermes Agent です。Hermes Agentは、単に質問へ回答するチャットボットではありません。ターミナル、ファイル、Web検索、ブラウザなどのツールを利用して作業し、セッションをまたいだ記憶や、再利用可能な手順である「スキル」を蓄積できます。
公式ドキュメントでは、Hermes Agentを「使うほど能力が高まる自己改善型AIエージェント」と位置付けています。ただし、ここでいう自己改善は、モデルそのものを勝手に再学習するという意味ではありません。ユーザーの好みや環境を記憶し、成功した作業手順をスキルとして保存し、次回以降に必要な知識だけを読み込む仕組みが中心です。
この記事では、Hermes Agentの構成を整理し、導入から安全な運用までを実務目線で解説します。
Hermes Agentとは
Hermes Agentは、Nous Researchが開発するMITライセンスのAIエージェントフレームワークです。CLIやデスクトップアプリだけでなく、Telegram、Discord、Slackなどのメッセージング環境からも利用できます。
一般的なAIチャットとの違いは、主に次の4点です。
- ツールを使って作業できる
- セッションをまたいで記憶を保持できる
- 繰り返し使う手順をスキルとして保存できる
- モデルや実行環境を用途に合わせて選べる
たとえば「このリポジトリのテストを実行し、失敗原因を直して」と依頼した場合、Hermes Agentはファイルを読み、コマンドを実行し、コードを編集し、再度テストするところまで進められます。もちろん、利用可能な操作は設定されたツールと承認ポリシーの範囲に限定されます。
Hermes Agentは特定のLLMだけに固定されていません。Nous Portal、OpenRouter、OpenAI、Anthropic、Google Geminiなど、複数のプロバイダーを選択できます。モデルを変えても、ツール、スキル、記憶といったエージェント側の仕組みを継続して使える点が特徴です。
中核となる3つの仕組み
1. ツール:回答ではなく実行へ進む
ツールは、AIが外部環境へ働きかけるための機能です。Hermes Agentの公式ドキュメントでは、Web検索、ファイル操作、ターミナル、ブラウザ、画像生成、音声合成、MCP連携など、多数のツールが案内されています。
代表的な用途は次のとおりです。
- ファイルを検索し、内容を読んで編集する
- Gitの差分や履歴を確認する
- テスト、ビルド、デプロイコマンドを実行する
- Web上の最新情報を調査する
- ブラウザで管理画面を操作する
- 定期処理をcronジョブとして登録する
- 複数のサブエージェントへ調査を分担する
重要なのは、ツールを増やせば自動的に安全になるわけではないことです。書き込み、外部送信、削除、支払いなどの操作には副作用があります。まず読み取り専用のツールから始め、必要な範囲だけ有効化する方が堅牢です。
2. メモリ:毎回の説明を減らす
Hermes Agentの永続メモリは、エージェント用の MEMORY.md と、ユーザープロファイル用の USER.md に分かれています。公式ドキュメントによると、既定の上限はそれぞれ2,200文字と1,375文字です。
この上限は小さく見えますが、意図的な設計です。会話を丸ごと保存するのではなく、次回の判断に本当に必要な情報だけを残します。
保存に向く情報の例は次のとおりです。
- 利用OSやプロジェクトの配置場所
- 使用しているテストフレームワーク
- 命名規則やコードスタイル
- ユーザーが好む説明の粒度
- 過去に訂正された重要な前提
一方、作業中だけ必要な一時ファイル名や、簡単に再取得できる一般知識は、永続メモリに向きません。メモリを「作業日報」にすると、重要な情報が埋もれてしまいます。
また、メモリはセッション開始時にシステムプロンプトへ読み込まれるため、セッション中に追加した内容が同じ会話へ即座に再注入されるわけではありません。更新内容は次のセッションから利用されます。この挙動は、プロンプトキャッシュを安定させるための設計です。
3. スキル:成功した手順を再利用する
スキルは、特定の作業を行うときに読み込む手順書です。すべての知識を常時プロンプトへ入れるのではなく、必要になったときだけ読み込む「段階的開示」の方式を採用しています。
公式ドキュメントでは、スキルの読み込みを次の3段階で説明しています。
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この構造により、スキルが増えても、すべての本文を毎回LLMへ送る必要がありません。
スキルに向くのは、次のような再現可能な手順です。
- リリース前の確認とデプロイ手順
- 障害調査のログ収集方法
- 社内文書の作成フォーマット
- 特定サービスの認証・操作方法
- 記事作成から公開確認までのワークフロー
Hermes Agentには、ローカル資料やオンラインドキュメント、直前に行った作業からスキルを作る /learn も用意されています。ただし、自動生成されたスキルは常に正しいとは限りません。コマンド、対象パス、失敗時の扱い、検証方法を人が確認してから運用へ入れるべきです。
macOSでの導入手順
Hermes Desktopを使わず、CLIだけを導入する場合、公式ドキュメントでは次のインストール方法が案内されています。
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インストール後は、セットアップウィザードを実行します。
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Nous Portalを利用する場合は、モデルとマネージドツールをまとめて設定する方法もあります。
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設定後は、まず状態を確認します。
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対話を開始する基本コマンドはシンプルです。
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単発の問い合わせなら、次のように実行できます。
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モデルやプロバイダーを変更するときは、設定ファイルを直接編集する前に、対話型コマンドを使う方が安全です。
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最初に試したい実践ワークフロー
リポジトリの状態確認
最初からコードを書き換えさせるのではなく、読み取りと検証から始めます。
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この依頼により、エージェントがどこまで正確に構成を追えるか確認できます。結果が妥当なら、次に小さな修正を依頼します。
失敗を再現してから修正する
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このように、再現、原因特定、修正、再検証を明示すると、「コードだけ書いて動作確認しない」という失敗を減らせます。
繰り返す作業をスキル化する
同じデプロイや確認作業を何度も行うなら、成功後に手順をスキルとして保存します。
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次回は、そのスキルを読み込んだ状態で同じ作業を依頼できます。人が毎回細かな手順を説明する負担を減らしつつ、検証工程を固定できます。
メッセージングと定期実行
Hermes Agentは、CLIだけでなく複数のメッセージングプラットフォームへ接続できます。外出先からTelegramやDiscordで依頼し、サーバー上のHermes Agentに作業させる構成も可能です。
ゲートウェイの基本操作は次のとおりです。
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定期処理には組み込みのcron機能を使えます。
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たとえば、毎朝の情報収集、サービスの状態確認、定期レポート作成などを自動化できます。ただし、通知先と実行権限を曖昧にしたまま定期実行すると、不要な外部送信や重複実行につながります。最初は手動実行し、ログと成果物を確認してから定期化するのが安全です。
安全に運用するための設計
AIエージェントは、権限が大きいほど便利になります。同時に、誤操作時の影響も大きくなります。次の順番で権限を広げると、事故を減らせます。
- 読み取り専用で調査させる
- ローカルファイルの限定された範囲だけ編集させる
- テストやビルドを実行させる
- Git差分を人が確認する
- 外部送信やデプロイは明示承認にする
- 十分に安定した作業だけ定期化する
設定ファイルと秘密情報も分離します。Hermes Agentの主設定は通常 ~/.hermes/config.yaml、APIキーなどは ~/.hermes/.env に置かれます。秘密情報をプロジェクトのREADME、スキル本文、Git履歴へ書かないことが重要です。
複数の独立したエージェントを動かす場合は、同じHermesホームを共有させず、プロファイルを分けます。公式メモリドキュメントでも、複数プロセスが同じメモリへ書き込むと、意図しない状態が混ざるため、エージェントごとにプロファイルを分けるよう案内されています。
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研究用と運用用で権限、記憶、スキルを分離すれば、誤って本番操作用の知識や認証設定を別用途へ持ち込むリスクを下げられます。
Hermes Agentが向いている場面
Hermes Agentは、次のような「情報を理解し、複数の道具を使い、結果を検証する」作業に向いています。
- ソフトウェア開発とテスト
- 技術調査とレポート作成
- サーバーやローカル環境の運用
- 定期的な情報収集と通知
- 文書・表計算・メディア処理
- 個人の作業手順を蓄積するアシスタント
一方、権限設計や検証なしで完全自動化する用途には注意が必要です。特に、公開投稿、支払い、削除、認証情報の変更、Git履歴の書き換えは、人による確認を残した方が安全です。
Hermes Agentの価値は、単に「何でも自動で行う」ことではありません。ユーザーの環境や判断基準を少しずつ理解し、再現可能な手順を増やしながら、人が確認すべき箇所を明確にできる点にあります。
まとめ
Hermes Agentは、ツール実行、永続メモリ、再利用可能なスキル、複数プロバイダー対応、メッセージング連携を組み合わせたオープンソースAIエージェントです。
導入時は、いきなり完全自動化を目指す必要はありません。まず読み取り専用の調査から始め、次に限定的な編集とテスト、最後に承認付きの外部操作へ進むのが現実的です。成功した手順をスキルとして残し、安定した知識だけをメモリへ保存すれば、毎回ゼロから説明する負担を減らせます。
AIエージェントを「一度きりの便利なチャット」ではなく、「安全に手順を育てていく作業環境」として使いたい場合、Hermes Agentは有力な選択肢です。